天王寺甲状腺えのもとクリニック、大阪市阿倍野区、内科、外科、耳鼻咽喉科天王寺甲状腺えのもとクリニック

甲状腺癌(がん)

症状・所見

  • 首のしこり
  • 嗄声(声がすれ)
  • 気管の圧迫による呼吸苦

検査・診断

a.超音波 大きさ、形、エコー輝度を評価
b.細胞診 採血と同じ細い針を腫瘍に穿刺し、細胞を採取します。顕微鏡を用いた細胞検査を行います。
c.血液検査 遊離T4、遊離T3、TSH、サイログロブリン(Tg)、CEA、カルシトニン、sIL2Rなど
d.CT検査 「腫瘍の大きさ」や「気管・食道・周囲血管への進展」を評価します。さらに転移の有無を評価します。
e.喉頭内視鏡検査 反回神経浸潤を疑う声帯麻痺(嗄声;させい)の有無を評価します。気管・喉頭浸潤や下咽頭への浸潤が無いかのチェックにも用います。
f.核医学検査(アイソトープ検査) FDG-PET検査で、高悪性度の癌に対しては、転移の有無を評価します。骨シンチを用い、骨転移の有無を評価する事もあります。I-131を用いた放射性ヨード治療では、遠隔転移の有無を知る事も出来ます。

どんな病気?

甲状腺のしこりでは「癌」の頻度は低く、大部分は「良性」です。男女比は1:3と女性に多く(全国がん罹患データによる)、ほかの癌に比べ進行が遅く、治癒しやすいことが大きな特徴です。
甲状腺癌は、病理組織により乳頭癌、濾胞(ろほう)癌、低分化癌、髄様癌、未分化癌に分けられます。ときに、悪性リンパ腫の発生母地となる事が知られております。それぞれの頻度は、乳頭癌が圧倒的に多く約93%、濾胞癌は約5%、髄様癌は約1%、未分化癌は約1%と報告されています(甲状腺外科学会全国集計)。
 
(1)乳頭癌
甲状腺癌の9割以上を占める進行が遅くおとなしいがんです。通常、しこり以外の症状はほとんどありませんが、しこりが大きくなってくると、違和感、痛み、声のかすれ(嗄声;させい)などの症状が現れることがあります。最近では、健康診断における頸動脈エコーで甲状腺のしこりを指摘され、受診する機会が増えたことも癌の発見率が高くなっている原因です。比較的早い時期から甲状腺周囲のリンパ節に転移することが多いため、首の側面にあるリンパ節がはれて異常に気が付く人もいます。乳頭癌の20年生存率は、90%を越えており、癌の中では予後が良い部類になります。
 
(2)濾胞(ろほう)癌
甲状腺癌の5%ほどを占めています。乳頭癌と同様に、しこりがあるだけでほかには異常がない場合がほとんどです。リンパ節への転移が少ないものの、肺や骨など遠いところに転移することがあります。乳頭癌と同じく、進行が遅く、転移を伴っていなければ治る率はかなり高いがんです。10年生存率は、90%程度と知られています。
 
(3)髄様癌
甲状腺癌全体の1~2%ほどを占める特殊な癌です。カルシトニンという血液中のカルシウムを下げるホルモンを作り出す傍濾胞細胞(C細胞)から発生する癌です。 このがんの約2/3はたまたまできた癌(散発性)ですが、約1/3は遺伝性の癌となります。遺伝性の場合は血縁者の半分に同じ癌ができる可能性があります(常染色体優性遺伝)。
遺伝性は多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)と呼ばれ、褐色細胞腫(副腎の腫瘍)や副甲状腺機能亢進症(過形成)などの内分泌腺の腫瘍を合併することがあります。遺伝性かどうかは、採血による遺伝子検査により、知ることができます(保険適用)。
 
(4)低分化癌
乳頭癌や濾胞癌のなかで、組織学的に細胞変性が強い低分化成分が含まれる癌は、低分化癌と呼ばれています。通常の乳頭癌や濾胞癌に比べ進行がやや早く、悪性度は少し高く、早期の適切な治療が必要となります。
 
(5)未分化癌
未分化癌は非常に未熟な細胞から発生し、発育が急速で悪性度の高い癌です。高齢者に多く、甲状腺癌の1~2%くらいに発見されます。

治療

治療はいずれのタイプにおいても、切除手術が第一選択となります。切除手術後は、甲状腺癌の組織型分類により治療法が異なります。それぞれの代表的な治療方法を(図)に示します。特性に応じてTSH抑制療法、放射性ヨード治療(I-131内用療法)、分子標的薬による抗がん剤治療(レンバチニブ、ソラフェニブ、セルペルカチニブなど)が選択されます。さらに、分子標的薬の選択は、手術で摘出した癌組織の“遺伝子変異”を参考にします。局所制御を目的に放射線外照射や粒子線治療などを行う場合もあります。
甲状腺癌の9割以上を占める乳頭癌は進行が遅く、おとなしい癌です。最近では1cm未満の“微小”乳頭癌では、手術に伴う合併症を避ける為、治療せずに経過を観察する方法も選択されます(アクティブサーベイランス)。